農業の効率化と技術革新の一環として、農薬散布ドローンの利用が注目されています。
しかし、多くの農家や関心を持つ者たちにとって、どのドローンを選ぶべきか、その性能や特徴はどうなのか、といった疑問が浮かぶことでしょう。
そこでこの記事では、実際に2機の農薬散布ドローンを用いて行った散布試験の結果を公開することで、今後、ドローンの導入を検討されている農家の皆様や、散布業を始めようと考えている方々の参考になればと思います。
記事のポイント
- 2機種のドローンの比較とそれぞれの特徴。
- 実際の散布効果とその精度に関する検証結果。
- 今後の農薬散布ドローンの可能性と展望。
異なるメーカーのドローンによる検証結果にご興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。
今回、ご協力くださった、みかん農家の皆様、高知県農業協同組合、高知県中央東農業振興センターの代表者の方々、そして、REALab.Warksの社長様に、心から感謝の気持ちを込めてお礼申し上げます。
農薬散布ドローン2機種の比較
本題に入る前に、ここでは農薬散布ドローン2機種の紹介と、検証を行ったロケーションについて簡単にご紹介します。
今回使用した農薬散布ドローンについて
今回の検証に使用した農薬散布ドローンは下記の通りですが、各機体の詳細についてはリンク先をご覧ください。
今回ご紹介する両機体には、「4ローターによるダウンウォッシュの強さ」と「アトマイザーを採用した農薬散布」の、2つの共通点がありますが、これらの特徴は、農薬散布ドローンの性能を評価する際の重要なポイントとなります。
用語解説
- アトマイザー:ドローンの農薬散布において、効果的かつ効率的な散布を実現するための装置で、粒径の制御、高効率散布、節水効果などが期待出来る。
- ダウンウォッシュ:ドローンのプロペラが回転すると、プロペラの下には強い下降気流が発生しまが、この下降気流のことを「ダウンウォッシュ」と呼びます(下:動画参照)。
ダウンウォッシュの強さは、農薬を目的の場所にしっかり散布するための重要な「キーポイント」になります。
また、両機体のアトマイザーは下画像の通りですが、EAvision:EA-30XPのアトマイザーは、10~300ミクロンの液滴サイズに対応することが出来るため、作物に対応した様々なニーズを満たすことが可能です。
農薬散布ドローン2機種|実際の効果を検証
ここからは、実際の検証方法と効果について解説をします。
現地の状況・検証方法
- 高知県香南市のみかん畑(南向き斜面)。
- 斜面の傾斜角:43度(最大)。
- 高低差:30メートル以上。
- 検証方法:水分が付着すると色が変わる試験紙(感水試験紙)を用いた、付着状況調査。
- 任意に選んだ果樹(3本)に対して、感水試験紙を設置(同じ枝葉に設置)し、真水を散布。
- 果樹の「北面:上部・下部」「南面:上部・下部」の計4ヵ所、葉表と葉裏を合わせた計8か所(果樹1本あたり)に感水試験紙を配置。
- 感水試験紙の変化を目視で確認。
散布結果の確認
次の画像は、果樹に設置した感水試験紙の散布結果を比較検証するために、それぞれの機体で散布した同一ヵ所の一部(12カ所/48カ所)を抜粋したものです。
画像の見方
- 画像の右側・・XAG社P30による散布結果
- 画像の左側・・EAvision社30-XPによる散布結果
- 画像の上段・・葉表(葉の表面)
- 画像の下段・・葉裏(葉の裏面)
農薬散布ドローン2機についての考察
今回の検証では、EAvision社のEA-30XPとXAG社のP30を使用しましたが、画像での散布結果を見ると、P30の方がより均一に散布できていることが分かります。
しかし、EA-30XPの散布高度が果樹の高さから3Mと高めに設定されていたことが、この結果に影響を与えていると考えています。
今後はEA-30XPのダウンウォッシュの特性を最大限に活かすため、この検証結果を元に技術の向上を目指していきたいところです。
「アトマイザーの差」は一目瞭然
効果的で効率的な農薬散布を実現するためには、ドローンのアトマイザーの性能を確認することが必要不可欠です。
ここでは、両機体のアトマイザーについても比較してみましょう。
アトマイザー|液滴サイズ比較
- EA-30XP・・10~300ミクロン
- P30・・100ミクロン以下
今回の検証では、EA-30XPの液滴サイズを「40ミクロン(値を設定)」、P30の「100ミクロン以下」で行いましたが、目視による結果はご覧の通りとなりました。
EA-30XPの機体からは、霧状に細かく調整された真水が噴霧されているのが分かります。
農薬散布ドローンの可能性と展望
農薬散布ドローンは、日本の農業の課題を解決するツールとして期待されていますが、その反面、国内では農業従事人口が減少しており、人手不足が課題となっています。
農業には「きつい」、「大変」というイメージがあるため、若者に人気がある職業とは言えず、その課題を克服するのは容易なことではありません。
しかも、高齢化が進んでおり、今後は日本の人口自体が減少していくことが予想されているため、農業従事人口の増加を期待するのは現実的ではないでしょう。
そのため、農業の人手不足の課題を解決する重要な鍵となるのは、「労働者を増やすことではなく、作業を効率化させること」であると言われています。
今後の展望
ドローン技術は、農業の未来を大きく変える可能性を秘めています。
従来の農薬散布方法と比べ、ドローンを使用することで、散布時間を大幅に短縮し、水の使用量も大幅に削減することが可能になりました。
さらに、規制の緩和により、ドローンの活用がより手軽になった事もあり、登録や点検、計画書の提出などの手間が省かれるだけでなく、夜間や目視外での飛行も可能です。
このような進化を続けるドローン技術は、急傾斜地での散布やピンポイント散布など、更なる高精度な作業を実現することが期待されていますが、ドローン技術の進歩により、作業が効率的になるだけでなく、環境に優しい農業も実現し、更には、次の世代が農業に興味を持つきっかけともなるはずです。
まとめ
この記事では、果樹農家の皆様へ向けて、実機での農薬散布ドローン2機種の比較とその効果を詳しく解説しました。
しかし、実際にはドローンを導入しても、上手く活用できずに放置している農家さんが少なくありません。
これは、ドローン販売業者の大きな課題として、今後さらに顕在化するでしょう。
記事中では、ドローンの性能についても触れましたが、最も重要なドローン選びのポイントは「どの業者から購入するか?」という点です。
記事のまとめ
- ドローンの性能も重要だが、もっとも重要なことは「農家の皆様と真摯に向き合ってくれる業者さんへ相談し、購入すること」です。
- 散布業者に依頼をする時も、「価格(単価)で選ぶ」のではなく、「人(業者の姿勢や経験)」で選ぶ。
将来的にドローンの導入を考えている農家の皆様にとってドローンの性能も大切ですが、信頼できる業者を選ぶことの重要性を強くおすすめします。
最後までご覧頂きありがとうございました。
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